第9章 日常回という名の苦行
金曜日。
決戦の日曜日まで、あと2日。
なのに、今日は特に何も起こらない。
朝、美月が迎えに来て、一緒に登校。
授業を受けて、昼は美月の手作り弁当。
放課後、一緒に帰る。
完全に日常回だ。
ゲームで言えば、プレイヤーが最もダレる部分。
でも——
「悠真、今日のお弁当どうだった?」
「美味しかった。特に肉じゃが」
「本当? 味付け濃くなかった?」
「ちょうど良かったよ」
「良かったー」
美月の安心した笑顔を見て思う。
この日常が、たまらなく愛おしい。
「そういえば悠真」
「ん?」
「日曜日、何時に待ち合わせる?」
「映画の時間は?」
「11時からだけど、その前にお昼ご飯食べたいな」
「じゃあ10時?」
「うん、それでいい」
何気ない会話。
でも、日曜日のことを考えるだけで、心臓がドキドキする。
家に着いて、別れ際。
「じゃあね、悠真」
「ああ、また明日」
「明日は土曜日だよ?」
「あ、そうか」
「もう、しっかりして」
美月が苦笑する。
「緊張してる?」
「してない」
「嘘」
「……してる」
正直に認めると、美月が優しく笑った。
「私も緊張してる」
「そうなの?」
「だって、初めてのデートだもん」
デート。
美月がそう言った。
やっぱり、美月もデートだと思ってるんだ。
「楽しみだね」
「うん、楽しみ」
日常回。
でも、この積み重ねが大切なんだ。
夜、部屋でゲームをしていると、ふと思った。
もし俺の人生がゲームだったら、今日みたいな日常回はスキップされるんだろうな。
でも、俺はスキップしたくない。
美月との何気ない会話も、一緒に過ごす時間も、全部大切にしたい。
スマホが震える。
美月からだ。
『明日、服何着てく?』
『まだ決めてない』
『私も迷ってる』
『美月は何着ても可愛いよ』
『またそういうこと言う』
『本当のことだし』
『バカ』
でも、スタンプは嬉しそうなウサギ。
『おやすみ、悠真』
『おやすみ』
日常回という名の苦行?
とんでもない。
これは、かけがえのない宝物だ。