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第11章 共通ルートの終わり

日曜日。

運命の日。

朝から快晴で、絶好のデート日和だ。

鏡の前で、何度も服装をチェックする。

白いシャツに黒いパンツ。

シンプルだけど、清潔感は大事だ。

時計を見る。9時30分。

そろそろ出ないと。

駅前の待ち合わせ場所に向かう。

10分前に到着すると、美月はもう来ていた。

「美月!」

「あ、悠真!」

振り向いた美月を見て、息を呑む。

水色のワンピースに白いカーディガン。

髪は少し巻いていて、薄くメイクもしている。

可愛い。

めちゃくちゃ可愛い。

「どう? 似合う?」

「すごく似合ってる。可愛い」

「本当? 良かった」

美月が嬉しそうに微笑む。

「悠真もカッコいいよ」

「そ、そう?」

「うん」

お互いに照れながら、映画館に向かう。

「何か飲む?」

「うん、ポップコーンも」

売店で飲み物とポップコーンを買う。

定番のデートコースだ。

映画は美月が選んだ恋愛映画。

正直、内容はあまり覚えていない。

隣に座る美月の存在が気になって、集中できなかった。

時々、美月の横顔を盗み見る。

真剣に画面を見つめる美月の顔は、いつもより大人っぽく見えた。

映画が終わって、外に出る。

「面白かった!」

「そ、そうだね」

「悠真、ちゃんと見てた?」

「見てたよ」

嘘だ。半分以上、美月を見ていた。

「じゃあ、お昼食べよっか」

「何食べたい?」

「パスタ!」

近くのイタリアンレストランに入る。

「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」

「はい」

「カップルシートへどうぞ」

カップルシート。

店員さんに、カップルだと思われた。

顔を見合わせて、お互い赤くなる。

でも、訂正しない。

だって、今日でカップルになるんだから。

料理を待ちながら、他愛ない話をする。

映画の感想、学校のこと、これからのこと。

「そういえば悠真」

「ん?」

「今日、すごく楽しい」

「俺も」

「もっと早くこうすれば良かったね」

「そうだね」

美月が少し寂しそうに笑う。

「でも、今までも楽しかったよ」

「うん」

料理が運ばれてきて、一緒に食べる。

美月のカルボナーラを一口もらって、俺のペペロンチーノをあげる。

「美味しい!」

「だろ?」

こんな些細なやり取りが、幸せだ。

食事を終えて、公園を散歩する。

日曜日の公園は、家族連れやカップルで賑わっている。

「いい天気だね」

「うん」

ベンチに座って、しばらく空を眺める。

今だ。

告白するなら、今しかない。

「美月」

「なに?」

深呼吸をして、美月の目を見つめる。

「俺、美月のことが好きだ」

美月の目が大きくなる。

「小学校の時からずっと一緒で、最初はただの幼馴染だと思ってた」

言葉が止まらない。

「でも、最近気づいたんだ。美月は俺にとって、特別な存在だって」

「悠真……」

「美月がいない人生なんて、考えられない」

「だから——」

もう一度、深呼吸。

「俺と付き合ってください」

言った。

ついに言った。

美月は驚いた顔のまま、俺を見つめている。

時間が止まったように感じる。

そして——

「……バカ」

美月が呟いた。

え?

「遅いよ」

「え?」

「私、ずっと待ってたのに」

美月の目に涙が浮かぶ。

「ずっと、ずっと前から、悠真のこと好きだった」

「美月……」

「でも、悠真は鈍感で、全然気づいてくれなくて」

「ごめん」

「ううん、いい」

美月が涙を拭いて、笑顔を見せる。

「やっと言ってくれたから」

「じゃあ……」

「うん」

美月が大きく頷く。

「お願いします。私と付き合ってください」

「こっちのセリフだよ」

二人で笑い合う。

そして、自然に手を繋いだ。

温かい。

美月の手は、小さくて、温かい。

「これで、共通ルート終了?」

美月が冗談っぽく言う。

「そうだな。ここから美月ルート突入」

「やった」

「でも、美月ルートしかないけどな」

「それでいい」

美月が俺の手を強く握る。

「他のルートなんて、いらない」

「うん」

夕日が、俺たちを優しく照らしている。

これが、俺たちの共通ルートの終わり。

そして、本当の物語の始まり。

「ねえ悠真」

「なに?」

「好き」

「俺も好きだ」

ゲームじゃない、現実の恋愛。

選択肢も、セーブポイントも、攻略法もない。

でも、だからこそ尊い。

美月と手を繋いで歩きながら、俺は思った。

俺のラブコメは、こんなはずじゃなかった。

もっと複雑で、もっとドラマチックで、もっとゲームみたいになるはずだった。

でも——

美月の笑顔を見て、確信する。

これでいい。

いや、これがいい。

俺と美月の、等身大のラブコメ。

それが、一番幸せな形だった。