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第12章 ライバルキャラの登場

月曜日の朝。

昨日、美月と正式に付き合うことになった俺は、最高の気分で目覚めた。

いつものように美月が迎えに来る。

「おはよう、悠真」

「おはよう、美月」

名前を呼び合うだけで、なんだか照れくさい。

「あの、悠真」

「ん?」

「学校では、まだ内緒にしとこうか」

「え? なんで?」

「だって、いきなりバレたら大騒ぎになるし」

確かに。

10年来の幼馴染が付き合い始めたなんて、格好の噂のネタだ。

「分かった。しばらくは内緒で」

「うん」

でも、通学路を歩く距離が、心なしか近い。

手を繋ぎたい衝動を必死に抑える。

教室に入ると、いつもと違う雰囲気。

みんながざわざわしている。

「どうしたの?」

美月が近くの友達に聞く。

「転校生が来るんだって!」

「え、今日?」

「そう! しかも超美人らしいよ」

そういえば、転校生の存在を忘れていた。

昨日のデートで頭がいっぱいで。

ホームルームの時間。

担任の先生が、一人の女子生徒を連れて入ってきた。

「今日から転入してくる、桜井さんだ」

教室がざわめく。

確かに、美人だ。

長い黒髪、整った顔立ち、スタイルもいい。

まさに正統派美少女。

「桜井琴音です。よろしくお願いします」

凛とした声で挨拶をする。

クラスの男子たちの視線が、一斉に彼女に集中する。

「席は……神崎の後ろが空いてるな」

え?

俺の後ろ?

「神崎、よろしく頼むぞ」

「は、はい」

桜井さんが俺の後ろの席に座る。

美月の視線を感じる。

ちょっと不機嫌そう?

「よろしくね、神崎くん」

後ろから声をかけられる。

「あ、よろしく」

「私のこと、琴音でいいよ」

「え?」

いきなりファーストネーム?

「だって、クラスメイトでしょ?」

「まあ、そうだけど」

なんだこの距離感の近さ。

休み時間になると、琴音の周りに人だかりができた。

「前の学校はどこ?」

「部活は何やってたの?」

「彼氏いる?」

質問攻めにあいながらも、琴音は笑顔で答えている。

そんな中、美月がやってきた。

「初めまして、白河美月です」

「桜井琴音です。よろしくね、美月ちゃん」

また、いきなりファーストネーム。

「美月ちゃんと神崎くんって、仲良しなんだね」

「え?」

「だって、さっきからずっと見てたもん」

鋭い。

転校初日で、もう俺たちの関係に気づいてる。

「幼馴染なんだ」

美月が答える。

「へー、いいなあ。幼馴染」

琴音が羨ましそうに言う。

「私、転校ばかりで、そういう長い付き合いの友達いないから」

どこかで聞いたセリフだ。

そうだ、佐藤さんと同じだ。

「でも、これからは友達になれるよ」

美月が優しく言う。

「本当? 嬉しい!」

琴音が満面の笑みを浮かべる。

なんだ、いい子じゃないか。

昼休み。

美月と一緒に昼食を食べようとしたら、琴音がやってきた。

「一緒に食べてもいい?」

「もちろん」

美月が快く承諾する。

三人で昼食を食べることに。

「神崎くんのお弁当、美味しそう」

「これ、美月が作ってくれたんだ」

つい、口を滑らせてしまった。

「へー! 美月ちゃん、料理上手なんだ」

「そんなことないよ」

「でも、彼氏さんは幸せだね」

琴音の何気ない一言に、俺と美月が固まる。

「か、彼氏なんていないよ」

美月が慌てて否定する。

「そうなの? 意外」

琴音が不思議そうな顔をする。

「だって、美月ちゃん可愛いし、優しいし」

「そ、そんな……」

「神崎くんも、カッコいいし」

「え?」

今度は俺が驚く番だった。

「私のタイプかも」

爆弾発言だ。

美月の箸が止まる。

「冗談だよ」

琴音がケラケラと笑う。

「でも、半分本気」

半分本気って何だよ。

気まずい空気が流れる。

これって、まさに——

ライバルキャラの登場じゃないか。

しかも、かなり強力な。

放課後。

琴音は他のクラスメイトに連れられて、部活見学に行った。

俺と美月は、二人で帰る。

「琴音さん、可愛いね」

美月が呟く。

「そう?」

「そうって、可愛いでしょ」

「美月の方が可愛い」

「……ありがと」

でも、美月の表情は晴れない。

「心配しなくていいよ」

「何が?」

「俺は美月一筋だから」

「分かってる」

美月が俺の袖を掴む。

「でも、不安」

「美月……」

「だって、琴音さん、積極的だし」

確かに、琴音の距離感は近い。

転校初日であの感じだ。

これから、どうなるか分からない。

「大丈夫」

俺は美月の手を握る。

人目があるけど、今は美月を安心させたい。

「俺は美月が好きだ。それは変わらない」

「うん」

美月が少し安心したような顔をする。

「私も、悠真が好き」

「じゃあ、問題ない」

二人で笑い合う。

でも、心の中で思う。

ライバルキャラの登場。

これは、波乱の予感だ。

夜、ベッドでスマホをいじっていると、通知が来た。

インスタの友達申請。

見ると、桜井琴音からだった。

承認すると、すぐにDMが来た。

『神崎くん、今日はありがとう!』

『いや、特に何もしてないけど』

『優しくしてくれたじゃん』

『それは、まあ』

『明日もよろしくね♪』

なんだろう、この感じ。

美月には悪いけど、少しドキッとしてしまった。

いかん。

俺には美月がいる。

ライバルキャラに惑わされてはいけない。

でも、これから学校生活、大丈夫かな……。