第13章 修羅場展開への突入
火曜日。
琴音が転校してきて2日目。
朝、いつものように美月と登校していると——
「おはよう! 美月ちゃん、神崎くん!」
後ろから琴音の声。
振り返ると、制服姿の琴音が走ってきた。
「一緒に行ってもいい?」
「もちろん」
美月が答える。
でも、表情が少し硬い。
三人で並んで歩く。
琴音が真ん中。
これ、完全に修羅場の構図じゃないか。
「神崎くん、昨日のDM見てくれた?」
「あ、ああ」
「返信遅いよー」
琴音が頬を膨らませる。
美月の視線が鋭くなる。
「DM?」
「うん、インスタ交換したの」
「へー」
美月の声が低い。
やばい。地雷踏んだ。
「美月ちゃんもインスタやってる?」
「やってない」
「じゃあ、始めようよ! 三人でグループ作ろう」
琴音の提案に、美月が考え込む。
「うーん、どうしようかな」
「絶対楽しいって!」
琴音の無邪気な笑顔。
でも、これが一番厄介だ。
悪意がないから、対処に困る。
教室に着いて、それぞれの席に座る。
授業中、後ろから消しゴムが飛んできた。
拾って見ると、小さなメモが挟まっている。
『放課後、時間ある?』
琴音からだ。
どう返事しよう。
美月にバレたらまずい。
でも、無視するのも……。
『ごめん、用事がある』
メモを返す。
すぐに返事が来た。
『美月ちゃんと?』
鋭い。
『まあ、そんなところ』
『ふーん』
それ以上、メモは来なかった。
昼休み。
今日も三人で昼食。
「美月ちゃんの手作り弁当、本当に美味しそう」
「今度、作り方教えてあげる」
「本当? やった!」
女子同士は仲良くやっているように見える。
でも、微妙な空気を感じる。
「神崎くんは、どんな女の子がタイプ?」
琴音が突然聞いてきた。
「え?」
「興味あるなー」
美月もこちらを見ている。
これ、絶対罠だ。
「優しい子、かな」
無難な答え。
「具体的には?」
「料理が上手で、一緒にいて楽しくて……」
完全に美月のことを言っている。
「へー」
琴音が意味深に笑う。
「私、料理得意だよ」
「そうなんだ」
「今度、お弁当作ってきてあげる」
「え、いや、それは……」
「楽しみにしてて!」
強引だ。
美月の表情が曇る。
放課後。
部活がない俺と美月は、いつも通り一緒に帰る準備をしていた。
「待って!」
琴音が呼び止める。
「私も一緒に帰る」
「でも、方向違うでしょ?」
美月が言う。
「途中まで一緒でいいじゃん」
結局、また三人で帰ることに。
「ねえ、今度の週末、みんなで遊びに行かない?」
琴音の提案。
「みんなって?」
「三人で!」
美月と目が合う。
困った。
断る理由もないし。
「いいけど……」
「やった! じゃあ土曜日ね」
勝手に決められた。
琴音が自分の家の方向に曲がって行った後、美月と二人になる。
「ごめん」
「何が?」
「琴音と仲良くしてること」
「別にいいよ」
美月はそう言うけど、明らかに不機嫌だ。
「でも……」
「でも?」
「あんまり仲良くしないで」
「美月……」
「分かってる。私の心が狭いんだよね」
「そんなことない」
「でも、嫉妬しちゃう」
美月が俯く。
「だって、琴音さん、可愛いし、積極的だし」
「美月」
俺は美月の肩に手を置く。
「俺は美月だけだよ」
「本当?」
「本当」
「じゃあ、キスして」
「え?」
突然の要求に驚く。
「ここで?」
「うん」
周りを見回す。
人通りは少ないけど、ゼロじゃない。
「恥ずかしい?」
「それは……」
「やっぱり、私のこと本気じゃないんだ」
「違う!」
俺は意を決して、美月にキスをした。
軽く、唇が触れる程度。
でも、初めてのキスだった。
「……ん」
美月が目を閉じている。
離れると、顔を真っ赤にしていた。
「バカ」
「美月が言ったんだろ」
「でも、本当にするなんて」
「好きだから」
「……私も好き」
手を繋いで、家まで歩く。
でも、心の中でモヤモヤが残る。
琴音の存在。
これは、確実に波乱の種だ。
夜、琴音からまたDMが来た。
『今日は楽しかった!』
『そう?』
『美月ちゃんと仲良しなんだね』
『幼馴染だから』
『いいなー』
『そう?』
『私も幼馴染欲しかった』
なんて返せばいいか分からない。
『これから友達作ればいいじゃん』
『そうだね』
『じゃあ、神崎くんが私の幼馴染になって』
『は?』
『冗談!』
『でも、仲良くしてね』
修羅場展開。
完全に突入してしまった。
これから、どうなるんだろう……。