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第15章 すれ違いイベント

金曜日の朝。

いつもの時間に玄関を開けると、美月の姿はなかった。

先に行ったのか?

それとも——

不安になりながら、一人で登校する。

教室に入ると、美月は既に席に座っていた。

「おはよう、美月」

「……おはよう」

返事は返ってきたけど、目を合わせてくれない。

明らかに避けられている。

「あの、昨日のこと——」

「後にして」

冷たい声。

美月がこんな態度を取るのは初めてだ。

席に着くと、後ろから声がかかった。

「おはよう、神崎くん」

琴音だ。

「おはよう」

「美月ちゃん、機嫌悪そうだね」

「……うん」

「私のせいかな」

「いや、俺が悪いんだ」

「そんなことない」

琴音が首を振る。

「私が余計なことしたから」

授業が始まる。

でも、全然集中できない。

美月との関係がギクシャクしている。

これが、すれ違いイベントか。

昼休み。

美月は友達と一緒に教室を出て行ってしまった。

俺と昼食を食べる気はないらしい。

「一緒に食べよう?」

琴音が声をかけてくる。

「いや、俺は——」

「美月ちゃん、行っちゃったよ」

「でも……」

「私と食べるの、嫌?」

そんなことはない。

でも、美月のことを考えると——

「5分だけ」

結局、琴音と昼食を食べることになった。

「ごめんね、迷惑かけて」

「琴音は悪くない」

「でも、私がいなければ——」

「そんなこと言うな」

琴音が悲しそうな顔をする。

その時、教室のドアが開いた。

美月が入ってくる。

俺と琴音が一緒にいるのを見て、一瞬動きが止まった。

「美月!」

「……何でもない」

美月はそのまま自分の席に戻ってしまった。

最悪だ。

誤解される状況を作ってしまった。

午後の授業も上の空。

美月に話しかけようとしても、無視される。

メモを渡そうとしても、受け取ってくれない。

完全に拒絶されている。

放課後。

美月は俺を待たずに帰ってしまった。

追いかけようとしたけど、もう姿は見えない。

「神崎くん」

琴音が寄ってくる。

「私、転校しようかな」

「は?」

「だって、私がいると、二人の関係が壊れちゃう」

「そんなこと——」

「あるよ」

琴音の目に涙が浮かぶ。

「私、二人の邪魔したくない」

「琴音……」

「でも、好きになっちゃったものは仕方ないじゃん」

琴音が泣き始める。

どうしていいか分からない。

慰めるべきか、でも下手に優しくしたら——

「ごめん、一人にして」

琴音は走って行ってしまった。

俺は一人、教室に残された。

なんでこんなことになったんだろう。

日曜日は、あんなに幸せだったのに。

家に帰って、美月に電話をかける。

出ない。

メッセージを送る。

既読もつかない。

完全に無視されている。

これが、すれ違いイベントの恐ろしさか。

ゲームなら、正しい選択肢を選べば解決する。

でも現実は、何が正解か分からない。

夜、ベッドで天井を見つめながら考える。

どうすれば、この状況を打開できるか。

美月との関係を修復するには。

琴音を傷つけずに済む方法は。

答えは出ない。

翌日の土曜日。

約束していた三人でのお出かけは、当然中止になった。

美月からの連絡はない。

琴音からは『ごめんなさい』というメッセージが来ただけ。

俺は一日中、部屋に引きこもった。

ゲームをしても、全然楽しくない。

美月のことばかり考えてしまう。

このまま、関係が壊れてしまうのか。

せっかく恋人になれたのに。

いや、諦めたくない。

明日、日曜日。

美月の家に行こう。

直接会って、話をしよう。

誤解を解いて、仲直りして。

また、前みたいに笑い合えるように。

すれ違いイベント。

でも、これはゲームじゃない。

リアルな恋愛だ。

だから、リアルに向き合うしかない。

美月、待ってて。

必ず、関係を取り戻すから。