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第16章 サブキャラの助言

日曜日の朝。

美月の家に行く決意をしたものの、玄関の前で足が止まった。

もし、会ってくれなかったら。

もし、もう嫌いだと言われたら。

そんな不安が頭をよぎる。

「神崎くん?」

振り返ると、そこには佐藤さんがいた。

「佐藤さん……」

「どうしたの? 美月ちゃんの家の前で」

「えっと、その……」

事情を説明すると、佐藤さんはため息をついた。

「やっぱり」

「やっぱり?」

「金曜日、美月ちゃんの様子がおかしかったから」

佐藤さんは俺を近くの公園に連れて行った。

ベンチに座って、話を聞いてくれる。

「転校生の子と、何かあったの?」

「……うん」

琴音のこと、美月との すれ違いのこと。

全部話した。

「なるほどね」

佐藤さんが考え込む。

「神崎くん、一つ聞いていい?」

「なに?」

「美月ちゃんのこと、本当に好き?」

「もちろん!」

即答した。

「じゃあ、なんで琴音さんに優しくするの?」

「それは……」

言葉に詰まる。

「可哀想だから?」

「……そうかも」

「それって、優しさじゃなくて、優柔不断じゃない?」

佐藤さんの言葉が胸に刺さる。

「美月ちゃんの立場になって考えてみて」

「美月の立場?」

「付き合い始めたばかりの彼氏が、他の女の子に優しくしてる」

「でも、それは——」

「理由なんて関係ない。嫌なものは嫌なの」

確かに、その通りだ。

もし立場が逆だったら、俺だって嫌だ。

「じゃあ、どうすれば……」

「簡単よ」

佐藤さんが微笑む。

「美月ちゃんに、正直に気持ちを伝える」

「でも、会ってくれない」

「なら、会えるまで待つ」

「待つ?」

「そう。美月ちゃんの家の前で、ずっと」

「それは……」

「本気なら、できるでしょ?」

佐藤さんが立ち上がる。

「あと、琴音さんのことも、ちゃんとケリをつけて」

「ケリ?」

「曖昧な優しさは、一番残酷よ」

そう言って、佐藤さんは去っていった。

残された俺は、しばらく考え込んだ。

佐藤さんの言う通りだ。

俺は優柔不断だった。

美月を傷つけて、琴音にも期待を持たせて。

誰にもいい顔をしようとして、結果的に全員を傷つけた。

よし、決めた。

美月の家に戻り、インターホンを押す。

「はい」

美月のお母さんの声。

「あの、悠真です。美月いますか?」

「あら、悠真くん。美月なら部屋にいるけど……」

「会わせてもらえませんか?」

「ちょっと待ってね」

しばらくして、お母さんが戻ってきた。

「ごめんなさい、会いたくないって」

「そうですか……」

「どうしたの? ケンカ?」

「まあ、そんなところです」

「珍しいわね、あなたたちが」

美月のお母さんが心配そうに見る。

「じゃあ、ここで待ってます」

「え?」

「美月が出てきてくれるまで、待ちます」

「でも……」

「お願いします」

俺は家の前に座り込んだ。

1時間経過。

2時間経過。

足が痺れてきた。

でも、動かない。

美月に会えるまで。

3時間経過。

お母さんが飲み物を持ってきてくれた。

「大丈夫?」

「はい」

「美月も頑固だから」

「俺が悪いんです」

「そう……」

4時間経過。

日が傾き始めた。

でも、まだ待つ。

すると、玄関のドアが開いた。

美月が出てきた。

目が赤い。泣いていたんだ。

「……バカ」

「美月」

「なんでまだいるの」

「会いたかったから」

「4時間も?」

「美月が出てきてくれるなら、何時間でも」

美月が俯く。

「ごめん」

俺は頭を下げた。

「琴音に優しくして、美月を傷つけた」

「……」

「美月が一番大事なのに、それを態度で示せなかった」

「悠真……」

「もう二度と、美月を不安にさせない」

「本当?」

「本当。約束する」

美月が泣き出した。

「バカ……ずっと待ってるなんて」

「美月に会いたかったから」

「私も……会いたかった」

美月が俺に抱きついてきた。

「ごめん、意地張って」

「俺の方こそごめん」

「もう、他の女の子に優しくしないで」

「分かった」

「私だけを見て」

「もちろん」

ギュッと抱きしめ合う。

やっと、仲直りできた。

「あの、近所の人が見てる」

「あ」

慌てて離れる。

でも、手は繋いだまま。

「これからどうする?」

「まず、琴音と話をする」

「一緒に行く」

「いいの?」

「うん。ちゃんとケリをつけて」

二人で、琴音の家に向かった。

サブキャラの助言。

それは時に、主人公を正しい道に導いてくれる。

佐藤さん、ありがとう。

おかげで、大切なものを取り戻せた。