第17章 回想シーンという救済
琴音の家の前に着いた。
美月と手を繋いだまま、インターホンを押す。
「はい」
「あの、神崎です。琴音いますか?」
「あら、クラスメイトの子? ちょっと待ってね」
しばらくして、琴音が出てきた。
俺たちの繋いだ手を見て、少し驚いた顔をする。
「二人で来たんだ」
「話があって」
「……分かった。入って」
琴音の部屋に通される。
整理整頓された、女の子らしい部屋だった。
「で、話って?」
単刀直入に切り出した。
「俺、美月と付き合ってる」
「知ってる」
「これからも、美月だけを大切にする」
「……そう」
琴音が俯く。
「だから、もう曖昧な態度は取らない」
「分かった」
「ごめん」
「謝らないで」
琴音が顔を上げる。
目に涙が浮かんでいた。
「私の方こそ、ごめん」
「琴音さん……」
美月が口を開く。
「私、琴音さんのこと嫌いじゃない」
「え?」
「むしろ、友達になりたい」
「でも、私……」
「悠真のことは諦めて。でも、友達にはなれるでしょ?」
美月が優しく微笑む。
琴音の涙が溢れた。
「ありがとう……」
「泣かないで」
美月が琴音を抱きしめる。
女の子同士の友情。
これも、大切なものだ。
しばらくして、琴音が落ち着いた。
「ねえ、聞いてもいい?」
「なに?」
「二人って、いつから両想いだったの?」
急な質問に、俺と美月は顔を見合わせた。
「えーと……」
「実は私もよく分からない」
美月が苦笑する。
そして、思い出話が始まった。
小学2年生の出会い。
転校してきた美月に、ゲームの話をした俺。
「覚えてる」
美月が懐かしそうに言う。
「悠真、必死だったよね」
「だって、美月が寂しそうだったから」
「それで延々とゲームの話されても」
「でも、笑ってくれた」
「面白かったから」
中学時代の思い出。
一緒に宿題をやったこと。
文化祭の準備を手伝ったこと。
「あの時、悠真が徹夜で看板作ってくれたよね」
「美月が頼むから」
「でも、翌日爆睡してた」
「あれは恥ずかしかった」
高校に入ってからのこと。
同じクラスになれて喜んだこと。
毎日一緒に登下校するようになったこと。
「いつの間にか、当たり前になってた」
「うん」
「でも、当たり前じゃなかったんだよね」
美月が俺の手を握る。
「特別だった」
琴音が静かに聞いている。
そして、最近のこと。
俺が美月を意識し始めたきっかけ。
美月も同じように感じていたこと。
「正直、いつから好きだったかは分からない」
「私も」
「でも、気づいたら好きだった」
「うん」
回想シーン。
それは、今の関係がどれだけ大切かを再確認させてくれる。
「いいな」
琴音が呟いた。
「10年の歴史」
「琴音さんも、これから作ればいい」
美月が言う。
「素敵な人と出会って、思い出を積み重ねて」
「そうだね」
琴音が微笑む。
「ありがとう、二人とも」
「こちらこそ」
「明日から、普通に接してくれる?」
「もちろん」
「友達として」
「うん、友達」
三人で笑い合う。
これで、わだかまりは解けた。
帰り道、美月と二人になる。
「美月、ありがとう」
「何が?」
「琴音に優しくしてくれて」
「だって、琴音さんは悪くないもん」
「でも、恋敵だったんだよ?」
「過去形でしょ」
美月が俺の腕に抱きつく。
「それに、悠真が私を選んでくれたし」
「当たり前だ」
「えへへ」
幸せそうな美月の顔。
これが、俺の選んだ答え。
「ねえ悠真」
「ん?」
「私たちの思い出、これからもたくさん作ろうね」
「もちろん」
「10年後も、20年後も」
「ずっと一緒に」
「約束」
「約束」
小指を絡める。
子供っぽいけど、大切な約束。
回想シーンは、過去を振り返るだけじゃない。
未来への希望も、教えてくれる。
俺たちの物語は、まだ始まったばかりだ。