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第18章 選択ミスのツケ

月曜日。

琴音との問題は解決し、美月との関係も修復できた。

でも、その代償は大きかった。

「おい、聞いたか?」

朝、教室に入ると田中が寄ってきた。

「何を?」

「お前と白河さんが付き合ってるって話」

ギクッ。

「な、なんでそれを」

「昨日、近所の人が見たらしいぞ。抱き合ってたって」

しまった。

あの時、近所の人に見られていたのか。

「で、本当なの?」

「……まあ」

隠しても仕方ない。

どうせバレる。

「マジか! いつから?」

「先週」

「早く言えよ!」

田中が大声を出す。

それを聞いて、クラスメイトが集まってきた。

「何? 神崎と白河さんが?」

「付き合ってるの?」

「いつから?」

質問攻めにあう。

美月の方を見ると、同じように女子に囲まれていた。

目が合う。

苦笑いを浮かべる美月。

『ごめん』

口の動きでそう言うと、美月は首を振った。

『いいよ』

そんなやり取りをしていると、琴音も来た。

「おはよう、みんな」

「琴音ちゃん、聞いた?」

「何を?」

「神崎くんと美月ちゃんが——」

「ああ、知ってる」

琴音があっさり答える。

「昨日、私も聞いたから」

「え? なんで?」

「二人が家に来てくれたの」

ざわめきが大きくなる。

これは、面倒なことになった。

授業が始まっても、皆の視線を感じる。

ヒソヒソ話も聞こえる。

『幼馴染同士かー』

『お似合いだよね』

『でも、転校生の子も神崎くん狙ってたんじゃ?』

余計な憶測まで飛び交っている。

これが、選択ミスのツケか。

もっと慎重に行動すべきだった。

昼休み。

美月と屋上に逃げる。

「疲れた……」

美月がため息をつく。

「ごめん、俺のせいで」

「悠真のせいじゃない」

「でも、俺があの時——」

「もういいよ」

美月が俺の手を握る。

「バレちゃったものは仕方ない」

「でも……」

「むしろ、隠さなくていいから楽かも」

美月が前向きだ。

「そう?」

「うん。堂々と一緒にいられる」

「それもそうか」

「ただ……」

美月の表情が曇る。

「注目されるのは嫌だな」

「分かる」

二人でため息をつく。

「でも、大丈夫」

美月が俺の肩にもたれかかる。

「悠真がいれば」

「俺も、美月がいれば大丈夫」

しばらく、そうして過ごす。

午後の授業。

相変わらず視線は感じるけど、少し慣れてきた。

放課後、部活の勧誘が激しくなった。

「神崎、彼女できたなら一緒に写真部どう?」

「白河さんも誘ってよ」

「カップルで入部歓迎!」

面倒くさい。

美月も同じような状況らしい。

結局、二人で早々に帰ることにした。

「人気者は大変だね」

皮肉を込めて言うと、美月が苦笑した。

「望んでないのに」

「でも、これも有名税?」

「何それ」

でも、悪いことばかりじゃない。

「あ、そうだ」

美月が思い出したように言う。

「佐藤さんが、おめでとうって」

「佐藤さんが?」

「うん。応援してるって」

そういえば、佐藤さんにもお礼を言わないと。

「明日、お礼言いに行こう」

「そうだね」

手を繋いで歩く。

もう、隠す必要はない。

堂々と、恋人として。

「ねえ悠真」

「ん?」

「後悔してない?」

「何を?」

「みんなにバレちゃったこと」

「してない」

即答する。

「むしろ、良かったかも」

「どうして?」

「だって、これで美月は俺のものだって、みんなに分かってもらえる」

「もの扱い!」

「あ、違った。俺の彼女」

「それでいい」

美月が嬉しそうに笑う。

選択ミスのツケ。

それは確かに面倒を招いた。

でも、得たものの方が大きい。

美月との関係を、公にできた。

隠し事のない、真っ直ぐな関係。

これでいい。

いや、これがいい。

「明日も、一緒に帰ろうね」

「もちろん」

「ずっと一緒」

「ずっと一緒」

夕日に照らされながら、二人で歩く。

選択ミス?

いいや、これは正しい選択だった。

そう信じて、前に進もう。