コンテンツにスキップ

第20章 幼馴染の涙

土曜日の夜。

明日は美月との遊園地デート。

準備をしていると、スマホが鳴った。

美月からだ。

でも、メッセージじゃなくて電話。

「もしもし?」

『悠真……』

声が震えている。

泣いている?

「どうした? 何かあった?」

『お父さんが……』

「お父さん?」

美月の父親は、単身赴任で遠くにいるはずだ。

『転勤が決まって……』

「転勤?」

『海外に……3年間』

「それは知ってる。でも、単身赴任だろ?」

『違うの』

美月の声が詰まる。

『家族も一緒に行くかもって』

は?

頭が真っ白になった。

「ちょっと待て、それって——」

『私も……海外に行くかもしれない』

衝撃的な告白。

美月が、海外に?

3年間も?

「い、いつ決まるの?」

『来週には……』

「そんな急に」

『ごめん、私も今日聞いたばかりで』

美月が泣いている。

電話越しでも分かる。

「今から会えるか?」

『え?』

「今すぐ会いたい」

『でも、もう遅いし』

「関係ない。待ってて」

電話を切って、すぐに家を出た。

美月の家に着くと、美月が玄関で待っていた。

目が赤く腫れている。

「悠真……」

「美月」

抱きしめる。

美月が俺の胸で泣き始めた。

「どうしよう……離れたくない」

「大丈夫、何か方法がある」

「でも……」

「絶対に離れない」

強く抱きしめる。

でも、正直、俺も不安だった。

3年間の遠距離恋愛。

高校生活の残り全部。

耐えられるか?

「中に入ろう」

美月の部屋で、詳しい話を聞く。

父親の会社の重要なプロジェクト。

家族同伴が条件。

断れば、父親の立場が悪くなる。

「お母さんは?」

「一緒に行くって」

「美月は?」

「分からない……」

美月がまた泣き出す。

「悠真と離れたくない」

「俺も」

「でも、お父さんのことも……」

難しい選択だ。

ゲームなら、ここで選択肢が出る。

【選択肢】 1. 一緒に行こう 2. 待ってる 3. 行くな

でも、どれも現実的じゃない。

「美月」

「なに?」

「俺、美月のお父さんと話をする」

「え?」

「明日、帰ってくるんだろ?」

「うん、でも……」

「任せて」

自信はない。

でも、やるしかない。

美月のために。

俺たちの未来のために。

深夜、家に帰る。

美月の涙が、脳裏に焼き付いている。

あんな美月、見たくない。

でも、現実は厳しい。

セーブもロードもできない。

選択肢も限られている。

それでも——

諦めたくない。

翌日、日曜日。

遊園地デートは延期になった。

代わりに、美月の家で作戦会議。

「お父さん、何時に帰ってくる?」

「お昼過ぎには」

「じゃあ、その時に」

「本当に大丈夫?」

美月が心配そうに見る。

「分からない。でも、やってみる」

「ありがとう」

美月が俺の手を握る。

震えている。

俺も震えている。

でも、逃げない。

午後1時。

美月の父親が帰ってきた。

「あら、悠真くん」

「お久しぶりです」

「元気にしてた?」

「はい」

優しい人だ。

だからこそ、話しづらい。

「あの、お父さん」

美月が切り出す。

「悠真が、話があるって」

「俺に?」

美月の父親が不思議そうな顔をする。

深呼吸。

そして、覚悟を決めて口を開いた。

「美月さんを、日本に残してください」

空気が凍る。

でも、もう後には引けない。

俺は、美月の父親の目を真っ直ぐ見つめた。

そして、想いの全てをぶつけた。