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第21章 主人公の覚悟

「美月さんを、日本に残してください」

俺の言葉に、美月の父親は驚いた顔をした。

「悠真くん、それは——」

「お願いします」

深く頭を下げる。

「ちょっと、落ち着いて話そう」

リビングに移動する。

美月は俺の隣に座った。

手を握ってくる。

応援してくれている。

「まず、事情を聞かせてくれるかな」

美月の父親が優しく言う。

「はい」

俺は正直に話した。

美月と付き合っていること。

どれだけ大切に思っているか。

離れたくないこと。

「なるほど」

父親が考え込む。

「でも、悠真くん。3年は長いよ」

「分かってます」

「高校卒業まで、ずっと離れ離れだ」

「それでも」

「待てるのか?」

「待ちます」

即答した。

「美月を待ちます。3年でも、5年でも」

「悠真……」

美月が俺の手を強く握る。

「でも、現実的に考えて——」

「現実的じゃないのは分かってます」

俺は父親の目を見つめる。

「でも、美月がいない人生の方が、もっと現実的じゃない」

「……」

「美月と出会って、10年以上一緒にいて」

言葉が止まらない。

「今更、離れるなんて考えられません」

「若いからそう思うんだ」

「違います」

きっぱりと否定する。

「若いからじゃない。美月だからです」

美月の父親が、美月を見る。

美月は涙を流していた。

でも、しっかりと父親を見つめ返している。

「美月、お前はどうなんだ?」

「私は……」

美月が口を開く。

「日本に残りたい」

「悠真くんのため?」

「それもある。でも——」

美月が深呼吸する。

「私の人生のため」

「美月……」

「お父さんとお母さんと一緒にいたい気持ちもある」

「でも、悠真と離れるのは、もっと辛い」

「3年後、後悔したくない」

美月の決意は固かった。

父親が大きなため息をついた。

「母さんとも相談しないと」

「お父さん……」

「でも、一つ条件がある」

「条件?」

俺と美月が同時に聞く。

「美月が日本に残るなら、一人暮らしはさせられない」

「それは——」

「うちの実家、美月のおばあちゃんの家がある」

「おばあちゃん?」

「そこで暮らすなら、考えてもいい」

美月の顔が明るくなる。

「本当!?」

「ただし」

父親が俺を見る。

「悠真くん、君にも条件がある」

「なんでしょう」

「美月を泣かせたら、許さない」

「はい」

「浮気なんてしたら、海の向こうからでも飛んで帰ってくる」

「しません」

「美月の成績が下がったら、君の責任だ」

「が、頑張ります」

父親が少し笑った。

「まったく、娘を持つ父親は辛いな」

「お父さん……」

「でも、悠真くんなら……まあ、信頼してる」

「ありがとうございます!」

俺は深く頭を下げた。

美月も一緒に。

「まだ決定じゃない。母さんとも話す」

「はい」

「でも、多分大丈夫だろう」

父親が立ち上がる。

「悠真くん」

「はい」

「美月を頼んだぞ」

「必ず守ります」

握手を交わす。

父親の手は、大きくて温かかった。

父親が部屋を出て行った後、美月が俺に抱きついてきた。

「ありがとう、悠真」

「まだ決定じゃない」

「でも、希望が見えた」

「うん」

「悠真、かっこよかった」

「そ、そう?」

「うん。お父さんに真っ向から向かっていって」

「必死だったから」

「それがかっこいい」

美月がキスをしてくる。

今度は、しっかりとした、長いキス。

「愛してる」

美月が囁く。

「俺も愛してる」

ゲームの主人公なら、もっとスマートにやるんだろう。

でも、俺は不器用にしかできない。

それでも、美月のためなら、何でもする。

それが、俺の覚悟。

夕方、美月の母親も交えて家族会議が行われた。

結果——

美月は日本に残ることになった。

おばあちゃんの家から、学校に通う。

週末は、俺が会いに行ってもいい。

そんな条件で。

「本当にいいの?」

母親が美月に確認する。

「うん。これが私の選択」

「寂しくなるよ」

「大丈夫。悠真がいるから」

美月が俺の手を握る。

両親の前で。

堂々と。

これが、俺たちの答え。

ゲームみたいな劇的な展開じゃない。

地味で、現実的で、妥協も必要。

でも、これでいい。

美月と一緒にいられるなら。

主人公の覚悟。

それは、大きな決断じゃなくてもいい。

大切な人を守るという、シンプルな想い。

それさえあれば、どんな困難も乗り越えられる。

俺は、そう信じている。