第22章 最後の選択
美月の両親が海外へ発つ日。
成田空港に、俺も見送りに来ていた。
「悠真くん、本当に美月を頼むね」
美月の母親が、何度も念を押す。
「はい、必ず」
「週に一度は連絡するから」
「分かりました」
美月の父親が近づいてくる。
「悠真くん」
「はい」
「これを」
渡されたのは、一枚の紙。
連絡先が書かれている。
「何かあったら、すぐに連絡を」
「ありがとうございます」
「美月も」
父親が美月を抱きしめる。
「お父さん……」
「しっかりやれよ」
「うん」
「寂しくなったら、いつでも——」
「大丈夫」
美月がきっぱりと言う。
「私、強くなるから」
搭乗時刻が近づく。
最後の抱擁。
涙。
そして、別れ。
両親が搭乗ゲートに消えていく。
美月は最後まで手を振っていた。
涙を流しながら。
でも、笑顔で。
「行っちゃった……」
「うん」
「本当に、行っちゃった」
美月が崩れそうになる。
俺は美月を支えた。
「大丈夫」
「うん……」
「俺がいる」
「……ありがとう」
空港からの帰り道。
美月のおばあちゃんの家に向かう。
「おばあちゃん、優しい人だから」
美月が説明する。
「そうなんだ」
「ちょっと心配性だけど」
「美月に似てる?」
「どういう意味?」
「いや、なんでも」
他愛ない会話。
でも、美月を元気づけたい。
おばあちゃんの家は、駅から15分ほど。
古いけど、趣のある一軒家だった。
「美月ちゃん!」
玄関で、小柄なおばあちゃんが待っていた。
「おばあちゃん、ただいま」
「よく来たね。これが悠真くん?」
「初めまして」
「まあ、ハンサムね」
おばあちゃんがニコニコする。
第一印象は合格らしい。
家の中を案内してもらう。
美月の部屋は、2階の日当たりのいい場所。
「好きに使っていいからね」
「ありがとう、おばあちゃん」
「悠真くんも、いつでも遊びに来て」
「はい」
夕食を一緒に食べる。
おばあちゃんの手料理は、優しい味がした。
「美月ちゃんのお母さんにも、こうやって料理を教えたのよ」
「へー」
「美月ちゃんも、料理上手でしょ?」
「まあまあかな」
「謙遜しちゃって」
おばあちゃんが俺を見る。
「悠真くん、美月ちゃんの料理、美味しい?」
「はい、とても」
「良かった」
温かい雰囲気。
美月も少しずつ元気を取り戻している。
食後、俺は帰ることにした。
「また来るね」
「うん」
玄関で、美月が俺を見送る。
「大丈夫?」
「大丈夫」
でも、少し不安そうだ。
「美月」
「なに?」
「これから、色々大変かもしれない」
「うん」
「でも、一緒に乗り越えよう」
「……うん」
美月が俺に抱きついてくる。
「怖い」
小さな声で呟く。
「何が?」
「これが夢だったらって」
「夢じゃない」
「目が覚めたら、全部なかったことになってたらって」
「大丈夫」
美月の頭を撫でる。
「これは現実だ」
「でも——」
「ゲームじゃない。夢でもない。これが俺たちの現実」
美月が顔を上げる。
涙で濡れた瞳。
「そして、俺たちが選んだ道」
「選んだ道……」
「後悔してる?」
「ううん」
美月が首を振る。
「後悔なんてしてない」
「じゃあ、前を向こう」
「うん」
最後のキス。
今日一番長い。
「じゃあね」
「うん、また明日」
「明日も会いに来るから」
「待ってる」
家路につきながら、考える。
これが、俺たちの最後の選択。
美月は家族より俺を選んだ。
俺は美月のために戦った。
正しい選択だったのか、分からない。
でも、自分たちで選んだ道だ。
だから、後悔はしない。
スマホが震える。
美月からだ。
『もう寂しい』
『俺も』
『でも、頑張る』
『一緒に頑張ろう』
『うん』
『おやすみ、美月』
『おやすみ、悠真』
『愛してる』
『私も愛してる』
ゲームなら、ここでエンディング。
でも、現実は続く。
これからが、本当の始まり。
最後の選択を終えて、新しい日常が始まる。
それがどんなものになるか、まだ分からない。
でも、美月と一緒なら、きっと大丈夫。
そう信じて、明日を待つ。