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第23章 リアルタイムアタック

美月の両親が海外に行ってから、1ヶ月が経った。

新しい生活にも慣れてきた頃。

「悠真、今日も部活?」

放課後、美月が聞いてくる。

「ああ、でも早めに終わらせる」

「じゃあ、待ってる」

俺は写真部に入った。

美月との思い出を残したくて。

美月は、相変わらず図書委員。

でも、最近は早めに仕事を終わらせて、俺を待っていてくれる。

「じゃあ、後で」

「うん」

部活を終えて、図書室に向かう。

美月は窓際の席で本を読んでいた。

夕日に照らされた横顔が、綺麗だ。

「お待たせ」

「あ、悠真」

「帰ろうか」

「うん」

最近のルーティン。

学校から美月のおばあちゃんの家まで、一緒に帰る。

「今日のご飯、何かな」

「昨日、おばあちゃんが魚買ってたよ」

「煮魚かな」

「美味しそう」

他愛ない会話。

でも、これが心地いい。

おばあちゃんの家に着く。

「お帰り、二人とも」

「ただいま、おばあちゃん」

「悠真くんも、いらっしゃい」

「お邪魔します」

最近は、俺も夕食を一緒に食べることが多い。

おばあちゃんも、それを喜んでくれている。

「今日は煮魚よ」

「やった、当たった」

美月が嬉しそうにする。

食卓を囲んで、三人で食事。

まるで家族みたいだ。

「そういえば、美月ちゃん」

おばあちゃんが口を開く。

「来週、学校で何かあるの?」

「え? あ、文化祭の準備」

「そうなの。忙しくなるね」

「うん、でも楽しみ」

文化祭か。

そういえば、もうそんな時期だ。

「悠真くんのクラスは何やるの?」

「演劇です」

「まあ、素敵」

「俺は裏方ですけど」

「でも、大事な役目よ」

おばあちゃんの言葉に、美月も頷く。

「悠真、頑張って」

「ああ」

食後、美月の部屋で宿題。

最近の定番コース。

「ねえ悠真」

「ん?」

「文化祭、楽しみだね」

「そうだね」

「去年は別々のクラスだったから」

「今年は一緒に回れる」

「うん」

美月が嬉しそうに微笑む。

こういう時間を大切にしたい。

21時。

そろそろ帰る時間だ。

「じゃあ、また明日」

「うん」

「おやすみ」

「おやすみ」

玄関で、軽くキス。

おばあちゃんには内緒。

帰り道、考える。

この1ヶ月、本当にあっという間だった。

リアルタイムアタック。

ゲーム用語で、最速クリアを目指すプレイスタイル。

でも、恋愛にリアルタイムアタックは必要ない。

むしろ、ゆっくりと時間をかけて、関係を深めていく。

それが大切。

家に帰ると、母親が待っていた。

「遅かったね」

「ごめん」

「美月ちゃんの家?」

「うん」

「そう」

母親は何も言わない。

信頼してくれている。

ありがたい。

部屋でスマホを見ると、美月からメッセージ。

『無事に帰った?』

『今帰った』

『良かった』

『心配性だな』

『だって、大切な人だもん』

照れる。

でも、嬉しい。

『文化祭、一緒に回ろうね』

『もちろん』

『写真もいっぱい撮ろう』

『任せて。写真部の本領発揮』

『楽しみ』

『俺も楽しみ』

『じゃあ、本当におやすみ』

『おやすみ』

スマホを置いて、天井を見つめる。

1ヶ月前は、不安でいっぱいだった。

でも今は、充実している。

美月との時間。

おばあちゃんとの時間。

新しい日常。

リアルタイムアタックじゃない。

スローライフでもない。

ちょうどいい速度で、二人の時間が流れている。

これでいい。

いや、これがいい。

明日も、美月に会える。

それだけで、幸せだ。