第25章 十年来の想い
文化祭当日。
快晴の空の下、学校は賑わっていた。
「悠真ー!」
美月が手を振りながら走ってくる。
今日は私服デー。
美月は白いワンピースに、薄いピンクのカーディガン。
「可愛い」
「本当? ありがとう」
美月が嬉しそうに微笑む。
「悠真もカッコいいよ」
「普通の服だけど」
「でも、似合ってる」
お互いに褒め合って、照れる。
「じゃあ、回ろうか」
「うん!」
まずは各クラスの出し物を見て回る。
1年生の模擬店。
2年生の展示。
3年生のお化け屋敷。
「キャー!」
美月が俺の腕にしがみつく。
「怖い?」
「う、うん」
「大丈夫、俺がいる」
「頼りにしてる」
お化け屋敷を出ると、美月はまだ俺の腕を掴んでいた。
「もう出たよ」
「あ、ご、ごめん」
慌てて離れる美月。
でも、すぐに手を繋ぎ直した。
「今日は特別」
「特別?」
「だって、文化祭だもん」
なるほど、特別な日。
なら、遠慮はいらない。
屋上で休憩。
買ってきた焼きそばを二人で食べる。
「美味しい」
「B級グルメって感じ」
「それがいいんじゃん」
「確かに」
のんびりとした時間。
でも、美月が急に真剣な顔になった。
「ねえ悠真」
「ん?」
「私たちって、いつから両想いだったのかな」
また、その話題。
「分からない」
「私も」
「でも——」
俺は美月を見る。
「きっと、ずっと前から」
「ずっと前?」
「小学生の時から、かも」
美月が驚いた顔をする。
「そんな昔から?」
「だって、美月といる時が一番楽しかった」
「それは、友達として——」
「違う」
俺は首を振る。
「今思えば、あれは恋だった」
「悠真……」
「美月は?」
「私は……」
美月が空を見上げる。
「中学の時かな」
「中学?」
「悠真が、文化祭の看板作ってくれた時」
懐かしい思い出。
「徹夜して、次の日爆睡してた」
「恥ずかしい思い出だ」
「でも、あの時思ったの」
美月が俺を見る。
「この人、私のために頑張ってくれてるって」
「美月が頼んだからだよ」
「でも、あんなに真剣にやってくれると思わなかった」
美月が微笑む。
「それで、意識し始めた」
「そうだったんだ」
「でも、言えなかった」
「なんで?」
「だって、幼馴染だから」
また、その言葉。
幼馴染という関係の難しさ。
「今更って感じがして」
「分かる」
「でも、高校に入って」
美月が続ける。
「悠真が他の女の子と話してるの見て、焦った」
「それで?」
「それで、自分の気持ちに正直になろうって」
「結果、今がある」
「うん」
二人で手を繋ぎ直す。
十年来の想い。
それは、時間をかけて熟成された、本物の愛情。
「ねえ悠真」
「なに?」
「これからも、ずっと一緒にいてくれる?」
「当たり前」
「20歳になっても?」
「うん」
「30歳になっても?」
「もちろん」
「おばあちゃんになっても?」
「それは早すぎる」
二人で笑い合う。
でも、本気だ。
ずっと一緒にいたい。
「約束ね」
「約束」
小指を絡める。
子供の頃からの、お決まりの儀式。
「あ、そろそろ演劇の時間」
美月が時計を見る。
「見に行こう」
「恥ずかしいな」
「でも、悠真が作った背景、見たい」
「大したことないよ」
「それでも見たい」
美月に引っ張られて、体育館へ。
演劇は大成功だった。
俺の描いた背景も、好評だった。
「すごい! 悠真、才能あるよ」
「そんなことない」
「あるって!」
美月が興奮している。
その笑顔を見て、俺も嬉しくなる。
文化祭の最後は、後夜祭。
キャンプファイヤーを囲んで、みんなで歌う。
美月と並んで、炎を見つめる。
「楽しかったね」
「うん」
「来年も一緒に回ろう」
「もちろん」
「再来年も」
「ずっとだ」
美月が俺にもたれかかる。
周りの目は気にしない。
今日は特別な日だから。
十年来の想い。
それは、これからも続いていく。
変わらない想いを胸に、二人で炎を見つめた。