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第28章 二人だけのイベント

12月24日、クリスマスイブ。

朝から雪が舞っていた。

「ホワイトクリスマスだ」

美月の家に向かいながら、空を見上げる。

手には、美月へのプレゼント。

何を買うか、すごく悩んだ。

結局選んだのは、ペアのマグカップ。

地味かもしれないけど、毎日使えるものがいいと思った。

「悠真!」

美月が玄関で待っていた。

赤いセーターに白いスカート。

クリスマスカラーだ。

「メリークリスマス」

「メリークリスマス」

家に入ると、いい匂いがした。

「もう料理始めてたの?」

「朝から頑張ってる」

キッチンを覗くと、たくさんの料理が並んでいた。

ローストチキン、サラダ、スープ、パスタ。

「すごい量」

「張り切りすぎちゃった」

美月が照れ笑いする。

「手伝う」

「ううん、座ってて」

「でも——」

「今日は私が悠真をもてなす日」

そう言われては、従うしかない。

リビングで待っていると、美月が料理を運んできた。

「豪華だな」

「特別な日だから」

テーブルに料理が並ぶ。

キャンドルも灯されて、雰囲気満点。

「いただきます」

「どうぞ」

チキンを一口食べる。

「美味しい!」

「本当?」

「うん、プロ級」

「そんな大げさな」

でも、美月は嬉しそうだ。

「あ、そうだ」

俺はプレゼントを取り出す。

「メリークリスマス」

「わあ、ありがとう!」

美月が包みを開ける。

「マグカップ!」

「ペアなんだ」

「可愛い!」

美月が早速、カップを手に取る。

「これで毎朝、お茶飲もう」

「うん」

「私のプレゼントは——」

美月が小さな箱を取り出す。

開けると、中にはキーホルダー。

写真が入るタイプだ。

「これ、お揃い」

美月も同じものを持っている。

「文化祭の時の写真、入れよう」

「いいね」

「いつも一緒にいられる」

ゲームで言えば、これは特別イベント。

クリスマスデート。

プレゼント交換。

定番の流れ。

でも、現実の方が温かい。

食事の後、ケーキを食べる。

美月の手作りケーキは、見た目も味も完璧だった。

「美味しい」

「頑張った甲斐があった」

「ありがとう」

「こちらこそ」

ソファに並んで座る。

テレビでクリスマス特番が流れている。

でも、あまり見ていない。

「ねえ悠真」

「ん?」

「来年の今頃、どうしてるかな」

「どうって?」

「受験終わって、進路も決まって」

「そうだな……」

想像する。

1年後の俺たち。

「きっと、また一緒にクリスマス過ごしてる」

「そうかな」

「そうだよ」

「約束?」

「約束」

美月が俺にもたれかかる。

「その次の年も?」

「もちろん」

「10年後も?」

「当たり前」

「嬉しい」

静かな時間が流れる。

雪は止んで、窓の外は真っ白。

「あ、雪だるま作ろう!」

美月が突然立ち上がる。

「今から?」

「うん!」

子供みたいにはしゃぐ美月。

でも、それもいい。

外に出て、雪だるまを作る。

「もっと大きく!」

「これ以上は無理」

「根性なし」

「はいはい」

二人で作った雪だるまは、少し歪んでいた。

でも、それも味がある。

「写真撮ろう」

「うん」

雪だるまと一緒に、自撮り。

これも大切な思い出。

家に戻ると、体が冷えていた。

「お茶入れる」

「ありがとう」

新しいマグカップで、温かいお茶を飲む。

「美味しい」

「カップのおかげ?」

「それもある」

二人で笑う。

二人だけのイベント。

派手じゃないけど、特別。

ゲームのイベントより、ずっと大切。

「悠真」

「なに?」

「今日、楽しかった」

「俺も」

「来年も、一緒に過ごそうね」

「もちろん」

「ずっと一緒」

「ずっと一緒」

雪の降る夜。

二人だけのクリスマス。

これ以上の幸せは、ない。