第30章 現実のトゥルーエンド
3月、卒業式の日。
桜が咲き始めた校門で、俺は美月を待っていた。
「お待たせ!」
美月が走ってくる。
卒業証書を大事そうに抱えて。
「おめでとう」
「悠真もおめでとう」
お互いに祝福し合う。
3年間の高校生活が終わった。
そして——
「合格通知、持ってきた?」
「もちろん」
二人とも、同じ大学に合格した。
約束通り、一緒の道を歩める。
「写真撮ろう」
「うん」
校門の前で、たくさん写真を撮る。
制服姿も、今日で見納めだ。
「寂しいね」
「でも、新しい始まり」
「そうだね」
教室に戻ると、クラスメイトたちが集まっていた。
「神崎、白河さん、大学一緒なんだって?」
「相変わらずラブラブだな」
みんなが祝福してくれる。
琴音もやってきた。
「卒業おめでとう」
「琴音もおめでとう」
「二人は同じ大学?」
「うん」
「いいなー。私は東京の大学」
「そうなんだ」
「でも、連絡取り合おうね」
「もちろん」
友情は、距離に関係ない。
佐藤さんも声をかけてくれた。
「おめでとう、二人とも」
「佐藤さんも」
「私は専門学校に行くの」
「何の?」
「写真」
意外な進路。
でも、佐藤さんらしい。
「頑張って」
「うん。二人も幸せにね」
最後のホームルーム。
担任の先生が、一人一人にメッセージをくれた。
「神崎、白河」
「はい」
「お前たち、本当に仲良いな」
先生が苦笑する。
「大学でも、その関係を大切に」
「はい」
「でも、勉強も忘れるなよ」
「分かってます」
みんなで笑う。
これが、高校生活最後の思い出。
放課後、美月と二人で屋上に上がった。
「懐かしいね」
「ここで、よく昼ご飯食べた」
「喧嘩もした」
「仲直りもした」
「告白もされた」
「それは図書室」
「あ、そうだった」
二人で笑う。
「ねえ悠真」
「ん?」
「これが、私たちのトゥルーエンド?」
ゲーム用語を使った質問。
「どうだろう」
「どう思う?」
「エンディングじゃない」
「え?」
「これは、新しい章の始まり」
美月が微笑む。
「確かに」
「大学編のスタート」
「その後は?」
「社会人編」
「結婚編?」
「それもあり」
「子育て編も?」
「気が早い」
でも、想像するのは楽しい。
これから先の、二人の未来。
「でも、悠真」
「なに?」
「もしこれがゲームなら」
「うん」
「最高のトゥルーエンドだと思う」
「そう?」
「だって」
美月が俺の手を握る。
「大好きな人と、ずっと一緒にいられる」
「それだけ?」
「それが一番大事」
確かに、その通りだ。
派手なイベントも、劇的な展開もない。
でも、愛する人と共に歩める。
これ以上の幸せはない。
「美月」
「なに?」
「ありがとう」
「何が?」
「俺を選んでくれて」
「私の方こそ」
夕日が、校舎を赤く染める。
3年前、同じ場所で見た景色。
でも、あの時とは違う。
今は、美月が隣にいる。
恋人として、パートナーとして。
「行こうか」
「うん」
手を繋いで、屋上を後にする。
現実のトゥルーエンド。
それは、終わりじゃない。
新しい始まり。
これからも、二人の物語は続いていく。
ゲームより素晴らしい、現実の物語が。