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第32章 俺たちのラブコメ

大学4年生の春。

就職も決まり、卒業を待つばかり。

「悠真、内定おめでとう!」

「美月もおめでとう」

お互いの内定を祝い合う。

俺は写真スタジオ。

美月は出版社。

違う会社だけど、どちらも第一志望だった。

「夢が叶ったね」

「まだスタートライン」

「でも、大きな一歩」

「そうだな」

大学のカフェテリアで、コーヒーを飲みながら話す。

4年間、ずっとこうして過ごしてきた。

「ねえ悠真」

「ん?」

「私たちのラブコメ、どうだった?」

突然の質問。

「どうって?」

「面白かった?」

「面白いも何も、現在進行形だろ」

「そっか」

美月が微笑む。

「でも、振り返ると」

「うん」

「すごく地味だよね」

確かに。

派手な展開もなく、劇的な事件もなく。

ただ、幼馴染が恋人になっただけ。

「でも」

俺は美月を見る。

「最高のラブコメだった」

「本当?」

「うん」

「どんなところが?」

考える。

「リアルだったところ」

「リアル?」

「ゲームみたいな都合のいい展開じゃなくて」

「確かに」

「すれ違いもあったし、嫉妬もあった」

「辛いこともあった」

「でも、全部乗り越えた」

美月が頷く。

「それが、俺たちのラブコメ」

「うん」

「誰かが書いたシナリオじゃない」

「私たちが作った物語」

その通りだ。

「そういえば」

美月が鞄から何かを取り出す。

ノート?

「これ、何だと思う?」

「日記?」

「ちょっと違う」

美月がノートを開く。

そこには、俺たちの思い出が綴られていた。

初めて会った日のこと。

一緒に宿題をしたこと。

文化祭の思い出。

告白の日。

「全部書いてあるの?」

「うん」

「いつから?」

「高校入ってから」

「そんな前から」

美月が恥ずかしそうに笑う。

「だって、忘れたくなかったから」

「美月……」

「悠真との思い出、全部大切だから」

ページをめくる。

そこには、俺の知らない美月の気持ちも書かれていた。

『今日、悠真が他の女の子と話してた。嫉妬しちゃった』

『悠真に告白されたい。でも、自分からは言えない』

『やっと付き合えた。夢みたい』

「恥ずかしい」

美月が顔を赤くする。

「でも、嬉しい」

「悠真にだけ、見せたくて」

「ありがとう」

これが、美月から見た俺たちのラブコメ。

俺の知らない一面がたくさんあった。

「俺も書こうかな」

「え?」

「男版、俺たちのラブコメ」

「読みたい!」

「恥ずかしいけど」

「いいじゃん、お互い様」

そうだな。

もう隠すことなんて、何もない。

「でも、悠真」

「なに?」

「まだ終わってないよ」

「何が?」

「私たちのラブコメ」

美月が俺の手を握る。

「これからも続く」

「そうだな」

「社会人編」

「結婚編」

「その先も」

「ずっと」

手を握り合う。

俺たちのラブコメ。

それは、特別じゃない。

でも、俺たちにとっては特別。

世界で一つだけの、かけがえのない物語。

「愛してる、美月」

「私も愛してる、悠真」

定番のセリフ。

でも、何度言っても色褪せない。

むしろ、言うたびに深まる想い。

これが、俺たちのラブコメ。

最高に幸せな、現実の恋愛物語。